研究概要 |
本研究では、同じ分子活性であっても異なる時間パターンに異なる情報をコードする"時間情報コーディング"の概念に基づき、インスリン波形の情報処理機構の解明を目指した。我々は、ラット肝臓由来のFao細胞を用いてインスリンシグナル伝達経路の中心的分子であるAKTと、その下流分子であるGSK3βとS6Kのリン酸化、そして同じくAKTの下流に位置するG6Paseの転写量の時系列データを取得し、これらの分子が同じAKTを上流に持つにも関わらず時間パターンが異なることを見出した。そこで、このメカニズムを明らかにするべく上記分子の時間パターンを再現する微分方程式モデルを作成し解析を行った。その結果、(1)ps6KはiFFLというネットワーク構造によりpAKTの時間変化に応答していること、pGSK3β,G6Paseは同じネットワーク構造であるにもかかわらず、(2)pGSK3βはpAKTに対する時定数が小さいためpAKTの時間パターンに追随できること、(3)G6PaseはpAKTに対する時定数が大きいためpAKTの一過的な時間パターンに追随できないが、pAKTに対するEC50が小さいため低濃度のpAKTの変化には応答できること、が明らかになった。次に、血中インスリンの時間パターンを模した刺激を与えたところ、pS6Kは追加分泌様刺激に、G6Paseは基礎分泌様刺激に特異的に応答し、pGSK3βはいずれの刺激パターンにも応答できることが明らかになった。つまり、AKT下流の分子はネットワークモチーフやkineticsの違いを用いることで、インスリンの特異的な時間パターンに応答していることが明らかになった。さらに、これらの特徴はラットの初代培養幹細胞でも保存されていることを明らかにした。以上の結果は、インスリンが異なる血中の時間パターンを用いて生体内の応答を制御している可能性を示唆している。以上の結果は研究代表者らによりMol.Cell(2012)に発表された。
|