本研究課題の重要な目的の一つ、コンピュータを利用したRNAの立体構造予測手法に関しては、前年度に達成した手法に、立体構造評価ポテンシャルの改良、断片構造の扱い方の工夫、等の細かな改良を加えつつ、Journal of Chemical Information and Modeling誌上で論文として発表を行った。また、この論文で発表した手法は二次構造情報に基づいた断片構造を利用する手法であったが、その汎用性や予測精度を高める目的で、単鎖の断片を利用する手法、単鎖の断片と二次構造情報に基づいた断片の両者を併せて利用する手法についても別途開発を進め、その成果の一部は分子生物学会年会等で発表を行った。これらの成果物は、現在所属している産業技術総合研究所主体の他の研究プロジェクトにも供出される予定である。また、RNA-タンパク質間の相互作用の評価に必要となる統計ポテンシャルの設計を目差し、まずはRNAよりも安定で扱いやすいとされる、DNAとタンパク質との相互作用をテストケースとして扱う事にした。その結果、DNA分子の熱力学的特性を考慮したポテンシャルを得るに至った。このポテンシャルは、DNAの構造と塩基配列に基づいたものであり、実際にタンパク質結合状態における塩基配列特異性を評価する手法としての有効性が示され、その成果はNucleic Acids Research誌上で論文として発表した。これにより得られた成果を詳細に検討・再設計することで、RNA-タンパク質の系においての応用も可能であると期待している。また、この過程で得られた核酸構造の熱力学的特性は、立体構造予測の予測精度向上にも寄与できるものであると考えている。今後はこれらの成果を発展させ、引き続きRNAの立体構造や相互作用に関する研究を進めていく。
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