本研究の目的は神経回路網の形成初期に見られる同期的神経活動を生み出す神経基盤を明らかにする事である。通常条件で培養された神経細胞から64チャンネルの多点電極で計測し得られた神経活動データを用いてダイナミックベイズモデルのパラメータ推定を行った。ここで用いたモデルはリニューアルプロセスを採用しており、個々の神経細胞の発火は全体の神経活動の時空間パターンに依存している。推定には神経細胞が同期的バーストを示している時点のデータを切り出して用いた。推定の結果得られた神経細胞の結合荷重は興奮性・抑制性の双方を含み、平均的には若干興奮性が優位となっている。結合加重の分布はガウス分布からは大きくずれ裾をひいている分布が得られた。また、推定の結果得られたパラメータを用いて神経回路網モデルの数値計算を行い.神経活動パターンのデータを得た。数値計算で観測されたバースト状の同期活動は実際に計測されたものと同様、発生頻度と持続時間は広く分布していた。これらの成果は2010/7にドイツで行われた多点電極学会において発表を行った。今年度の研究においてはバースト状の同期活動の再現に至ったが、今後はパラメータの変化に依存してモデルの挙動がどの様に変化するか調べる事で神経回路の正常な発達に必要とされる条件を探索したいと考えている。また、神経活動に依存して回路構造が動的に変化する機構を取り入れて神経回路網の形成初期を再現する数理モデルを構築することで、神経回路の正常な発達を促す十分な条件の探索も行っていきたい。
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