研究概要 |
大脳皮質の神経細胞から観測されるスパイク時系列は,非常に不規則であることが知られている.この不規則な時系列が情報処理においてどのような意味を持つのかについては明らかにされていない.本申請課題では,動物が活動中の大脳皮質神経細胞が生成する不規則なスパイク信号時系列に共通する数理構造を解析する事を通して,神経細胞が表現している情報の内容によらない,普遍的な情報変換・伝達原理を明らかにすることを目指している.新しい情報処理様式を提案するという非常に挑戦的で難しい問題に取り組むために,本課題に先立ち条件付エントロピー最小化原理という仮説を提案し,この仮説の検証を主軸に追究する方法を用いている. 平成22年度は主に,礒村らにより活動中のラット大脳皮質運動野の神経細胞から記録されたスパイク時系列(Nature Neuroscience 2009)を詳細に解析し,確率過程及び情報理論の数理計算を行った.結果としてこれらのスパイク時系列の間隔が,一般化第2種ベータ分布と呼ばれる分布でよく記述できることデータ解析により示し,この分布はスパイク発火率がガンマ分布に従って変化することにより説明されることを示した.さらにこの分布は,神経細胞という不規則な情報処理デバイスが,単純に情報の損失を最小化するようにスパイク時系列を生成しているのではなく,応答の信頼性(条件付エントロピー)と情報の量(発火率のエントロピー)とエネルギー(平均発火率)のバランスをうまくとりながら,スパイク時系列を生成していると説明できることを示した(論文投稿中).
|