研究概要 |
大脳皮質の神経細胞から観測されるスパイク時系列は,非常に不規則であることが知られている..この不規則な時系列が情報処理においてどのような意味を持つのかについては明らかにされていない.本申請課題では,動物が活動中の大脳皮質神経細胞が生成する不規則なスパイク信号時系列に共通する数理構造を解析する事を通して,神経細胞が表現している情報の内容によらない,普遍的な情報変換・伝達原理を明らかにすることを目指している.新しい情報処理様式を提案するという非常に挑戦的で難しい問題に取り組むために,本課題に先立ち条件付エントロピー最小化原理という仮説を提案し,この仮説の検証を主軸に追究する方法を用いている. 平成23年度は主に,平成22年度に示した「脳内スパイク時系列の間隔が,一般化第2種ベータ分布と呼ばれる分布でよく記述できることを,スパイク発火率がガンマ分布に従って変化し,この分布は,神経細胞という不規則な情報処理デバイスが,単純に情報の損失を最小化するようにスパイク時系列を生成しているのではなく,応答の信頼性(条件付エントロピー)と情報の量(発火率のエントロピー)とエネルギー(平均発火率)のバランスをうまくとりながら,スパイク時系列を生成している」という仮説をより洗練し,論文へとまとめた(PLoS Computational Biology in press).この過程で,当初提案した形式よりシンプルかつ一般的な形へと書き換えることで,従来の理論との関係を明らかにした.またこの理論から,運動野の神経細胞の発火率を用いた時間要素の表現方法について新たな仮説を構築した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では,スライス実験を用いた理論の検証を行うことになっているが,理論そのものが多く膨らみ,発展させることができる可能性が見えてきたので,次年度は主に理論解析を優先させていく予定である.
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