大脳皮質の神経細胞から観測されるスパイク時系列は,非常に不規則であることが知られている.この不規則な時系列が情報処理においてどのような意味を持つのかについては明らかにされていない.本申請課題では,動物が活動中の大脳皮質神経細胞が生成する不規則なスパイク信号時系列に共通する数理構造を解析する事を通して,神経細胞が表現している情報の内容によらない,普遍的な情報変換・伝達原理を明らかにすることを目指している.新しい情報処理様式を提案するという非常に挑戦的で難しい問題に取り組むために,本課題に先立ち条件付エントロピー最小化原理という仮説を提案し,この仮説の検証を主軸に追究する方法を用いている.平成23年度には,制約付エントロピー最大化原理(脳内スパイク時系列の間隔が,一般化第2種ベータ分布と呼ばれる分布でよく記述できることは,神経細胞という不規則な情報処理デバイスが,応答の信頼性(条件付エントロピー)とエネルギー(平均発火率)の制約を受けながら情報の量(発火率の定常エントロピー)を最大にするように,スパイク時系列を生成していることを示唆する)を提案した.このもともとの制約付エントロピー最大化原理では情報の表現量である発火率がスパイクの前後で無相関であることを仮定していた(PLoS Comput Biol. 2012). 本平成24年度は,発火率がスパイクの前後で相関のある場合への拡張を考え,例として経過時間コーディングにおけるこの仮説の拡張を考察し,論文にまとめた(J Stat Mech 2013).さらに不規則スパイク時系列が生成されるメカニズムを調べるために,少数の大きなシナプス入力が時系列に与える影響について電気生理学的に調べ,報告した(Sci Rep 2012).
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