我々は神経幹細胞の増殖がアデノシンによって抑制され、これはアデノシントランスポーターの一種である受動拡散型ヌクレオシドトランスポーター1(ENT1)を介したアデノシン細胞内取込みによってもたらされることを見出した。本研究では、ENT1を介したアデノシン取込みによる神経幹細胞の増殖抑制の分子基盤を明らかにするとともに、ENT1を介したアデノシンの細胞内取込みと増殖抑制が、脳内のニューロン新生においてどのような役割を果たしているのかを探ることを目的とした。平成22年度は次の2つの項目について検討を行い、下記のような成果を得た。 1)マウス海馬由来の神経幹細胞におけるENT1の発現解析および活性調節機構の解析 マウス海馬から神経幹細胞を調整し、増殖条件および分化条件下におけるENT1ならびにENT2、ENT3、ENT4のmRNA発現を解析したところ、ENT1は未分化状態で多く発現し、分化に伴い、その発現は低下した。一方、ENT2-4は未分化状態ではほとんど発現せず、分化に伴い、その発現が上昇した。^3H-アデノシン取込みを指標にしてトランスポーター活性を調べたところ、未分化な神経幹細胞におけるENT1特異的なアデノシン取込みが明らかになった。 2)ENT1を介したアデノシン取込みによる神経幹細胞増殖抑制の分子機構の解明 野生型およびENT1遺伝子欠損マウスより神経幹細胞を培養し、アデノシンの増殖抑制効果を調べたところ、アデノシン取込み活性は欠損マウスで弱く、またENT1(-/-)神経幹細胞はアデノシンによる増殖抑制に耐性を示した。また、薬理学的・生化学的解析により細胞内に取り込まれたアデノシンは、アデノシンキナーゼによってアデノシン-1-リン酸(AMP)に代謝された後、ピリミジンde novo合成経路を抑制して増殖を阻害していることが明らかとなった。
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