研究課題
RNA-seq法により、学習後にショウジョウバエ嗅覚記憶中枢(キノコ体)で発現上昇する遺伝子を網羅的に解析した。同定された遺伝子について定量PCRにより解析した結果、これまでに17遺伝子について統計的有意差を確認した。さらにそれらのうち4遺伝子についてin situ hybridizationによって解析し、やはり学習後の発現上昇を確認することができた。本研究では脳の一部(約2,500細胞からなる)における記憶依存的な遺伝子発現系の確立を目指しており、これらの結果から、記憶形成時に発現する遺伝子を同定するための実験系の確立を実証できた。本研究ではさらに、発現解析で同定された遺伝子について、トランスポゾン挿入により遺伝子機能が欠損した系統を用いて長期記憶形成への関与を調べた。その結果、新規遺伝子CG8500遺伝子領域内に挿入のある系統において長期記憶形成に異常が見られた。RNA-seqの発現解析では、CG8500はspaced training(長期記憶を誘導する条件づけプロトコール)後に発現上昇が見られた一方で、massed training(刺激提示量は同じだが長期記憶を誘導しないプロトコール)では上昇は見られなかった。したがってCG8500は長期記憶形成時に特異的に発現変動することが示唆される。CG8500はほ乳類Di-Ras2と相同性の高いタンパクをコードしている。Di-Ras2はヒトの脳で発現することが報告されている。CG8500遺伝子を含め本研究により同定された遺伝子群を詳細に解析することにより、動物一般において記憶形成を制御する基本分子機構の解明が期待できる。
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Journal of Neuroscience Methods
巻: 188 ページ: 195-204