研究概要 |
近年、成体脳の海馬歯状回でもニューロン新生が起きていることが定説となっている。しかし、新生ニューロンの既存回路網への組み込みが、記憶学習時に認められる、神経細胞間伝達効率の可塑的変化によりどのように影響を受けるのかは不明であった。スパインは、ニューロン間の信号伝達の場であるシナプスにおいて、シナプス後部の機能的構造体である。研究代表者らは、神経可塑性の一つであるLTPの、新生後12日齢時での誘導が、28日齢時の新生ニコーロンスパインの発現頻度を誘導依存的に上昇させることを観察した。これをもとに、可塑性関連蛋白質の新生ニューロン内での発現を指標とし、情報獲得時の新生ニューロンのスパイン発現様式と、新たな学習・記憶痕跡への参加様式との相関の検討を行っている。 細胞の分裂時に起こるBrdU標識は、海馬歯状回において新生ニューロンの標識を可能とするとともに,標識日を誕生日として同定できる。LTP誘導を行った歯状回内で、Zif268、c-Fos、Arcといった可塑性関連蛋白質の発現誘導と検出感度を検討し、Zif268が最も発現誘導の検出感度が高いことを確認した。本年度は、新生後12日・28日齢時それぞれ、もしくは両時点でのLTP誘導による28日齢新生ニューロン内でのZif268の陽性率を検討した。この結果、まだ例数は少ないものの、12日目と28日目の両日にLTP誘導を行うと、12日目と28日目のそれぞれにだけLTP誘導を行った場合と比べ、BrdU陽性細胞中のZif268陽性率が上昇する可能性が示された。この結果は、12日齢時のLTP誘導によりスパイン発現頻度が上昇している新生ニューロンでは、28日齢時点での情報獲得効率が上昇していることを示唆する。今後は、さらに例数を増やし、上記の結果が統計学的に有意なものであるかを検討する。さらに、もう一つの新生ニューロンの標識法である、レトロウイルスによるGFP標識法を基盤とした免疫電子顕微鏡法により、新生28日齢のニューロンのスパインが、真に機能的な興奮性シナプスの要件を満たしているか検討する。
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