研究課題
NMDA型グルタミン酸受容体は中枢神経系において興奮性神経伝達を担っており、その過剰活性化はてんかんの病態に深く関わることが報告されている。D-セリンはNMDA受容体の機能を調節する内在性コ・アゴニストのひとつである。本研究では、D-セリンの合成酵素であるセリンラセマーゼ(SR)をノックアウト(KO)したマウスを用い、ペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発痙攣におけるD-セリンの役割を検討した。野生型(WT)マウスとSR-KOマウスにPTZ(50mg/kg)を腹腔内投与しところ、検討したすべてのマウスにおいて全身性強直性間代性発作が誘発された。しかし、SR-KOマウスでは、痙攣発作の持続時間がWTマウスに比べ有意に短かった。さらに、SR-KOマウスは痙攣発作後すべての生存したのに対して、WTマウスは1匹死亡したことから、SR-KOマウスではPTZにより誘発される痙攣発作の程度が緩和されることが明らかとなった。この結果に一致して、SR-KOマウスでは、PTZ投与2時間後の大脳皮質におけるc-fos(神経活動の興奮レベルの指標)発現細胞がWTに比べ有意に減少し、さらにPTZ投与3日後の海馬歯状回における活性化アストロサイトの数もWTマウスに比べ有意に少なかった。また、海馬歯状回にカニューレを留置し、自由行動下のマウスでMicrodialysisを行ったところ、WTマウスではPTZ投与後に細胞外グルタミン酸濃度が上昇するのに対して、SR-KOマウスではPTZ投与後の細胞外グルタミン酸濃度の増加が認められなかった。以上の結果から、D-セリンの合成を抑制することによって、PTZ投与により誘発される痙攣を緩和できることが明らかになり、今後SRやD-セリンをターゲットとする新規治療薬の開発がてんかんの治療戦略に役立つと考えられる。
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