研究概要 |
神経回路網は、環境からの情報を処理するために形成されるが、形成初期段階は、主に遺伝的支配によるものである。しかし、発生過程で一旦回路が形成された後に、神経回路は、より効率の良い情報伝達を行うために、細かな単位で再編成が起きる。この神経回路の再編成は、内外の環境からの情報により活動依存的に行われると考えられている。しかし、神経回路の再編成過程で、最終的に残る神経回路と脱落する神経回路が、どのような分子メカニズムで選抜されるのかは未知の部分が多い。プラナリアの視神経および脳の形成過程をモデルとした研究によって、回路形成後に発現する2種の新規の神経ペプチド前駆体(Neuronal activity-induced neuropeptide 1,2 ; NAINP1,NAINP2)を同定した。NANP1は、視神経の投射先の神経細胞で発現し、NAINP2は、視神経および視神経の投射先の神経細胞で発現している。機能解析の結果から、プラナリアの視神経-視覚中枢神経の回路形成過程で、光シグナルが入ることで、活動依存的に機能的な神経回路の再編成が起きていて、NAINP1およびNAINP2が、この神経回路の再編成に関与していることが推察された。さらに、プラナリアをカリウムイオンやMDAを用いて神経細胞を刺激して神経細胞を活性化させる状態かつ視神経からの光刺激を排除するために暗黒下でプラナリアを再生させた。その結果、再生4日目で、NAINP1およびNAINP2遺伝子の発現量が上昇し、さらに再生5日目ではさらに発現量がより上昇し、NMDA型受容体依存的なシグナルが両遺伝子の発現に重要な働きをしていることが示唆された。一方、AP5によってNMDA受容体活性を阻害した場合でも発現量の減少は認められなかったことから、MDA型グルタミン酸受容体非依存的な活性化も存在する可能性が考えられた。今後さらに詳細な解析をすることで、神経の可塑性がどのような分子メカニズムで起きているのかを解明していくことで、ヒトを含む高等な脳が記憶や学習の際におきる神経可塑性の解明に役立てて生きえるようになると考えられる。
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