研究課題
脊髄損傷後には二段階の損傷が存在する。一つは受傷直後の機械的損傷である一次損傷、もう一つはそれに引き続いて起こる出血や炎症、浮腫による二次損傷である。この二次損傷の際に集積する炎症性アストロサイトによるグリア瘢痕は損傷周囲に形成され、脆弱な損傷組織の補強や破綻した血液脳関門の修復に働く。このグリア瘢痕は神経の再生軸索の通過を阻み、機能回復阻害因子の一つであると考えられていた。しかし反応性アストロサイトが脊髄損傷後の炎症性細胞の浸潤を収束させ、損傷神経の修復を促す細胞としての役割を担い、損傷後の機能回復に有利な側面も持つことを我々は報告した。本課題ではアストロサイトの移動活性化メカニズムの詳細を明らかにしようと試みた。過去の報告とは異なり、アストロサイトの極性形成にはSTAT3は関与せず、また微小管ネットワーク形成にも関与しないこと示した。さらにSTAT3によるアストロサイトの移動メカニズムは、STAT3のリン酸化を介し、下流の標的因子MMP2の酵素活性調節と関連が示唆された。現在MMP2を介した経路がアストロサイトの移動調節に必須かを確かめるために、アストロサイトのSTAT3/SOCS3の発現欠失マウス、MMP2遺伝子欠損マウスから採取したアストロサイトを用いて確認実験を実施中である。また我々はこれまでに、in vitroの実験系で特異的なシグナル阻害薬としての活性しか確認されていなかったあるシグナルの特異的な阻害薬剤が、脊髄損傷後の機能回復を助ける有用な効果を示すことを村山医療センター整形外科の池上、岩波、加藤医師らと共に明らかにした。あるシグナルの特異的なシグナル阻害薬を脊髄損傷治療薬として応用するために、反応性アストロサイトの移動に対してこの薬剤がどのような効果を示すのか、生体内・試験管内で検討を行い、客観的かつ定量的に評価し、投稿中の論文の完成を目指している。
すべて 2010
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Molecular Brain.
巻: 3 ページ: 31
Experimental Neurology
巻: 224(2) ページ: 403-414