研究課題
我々の研究目的は、反応性アストロサイトの移動性獲得メカニズムを理解し、また、有益な側面を脊髄損傷後の回復過程に活用することにある。脊髄損傷後には二段階の損傷が存在し、一つは受傷直後の機械的損傷である一次損傷、もう一つはそれに引き続いて起こる出血や炎症、浮腫による二次損傷である。この二次損傷の際に損傷部へ炎症性アストロサイトが集積してグリア瘢痕が周囲に形成され、脆弱な損傷組織の補強や破綻した血液脳関門の修復に働く。このグリア瘢痕は神経の再生軸索の通過を阻み、機能回復阻害因子であると考えられていたが、実は損傷後の機能回復に有利な側面も持つことが分かった。反応性アストロサイトは脊髄損傷後の炎症性細胞の浸潤を収束させ、損傷神経の修復を促す細胞としての役割を担い、損傷後の機能回復に有利な側面も持つことを我々はこれまでに報告してきた。今年度我々はGlycogensynthasekinase-3(GSK-3)の阻害剤を用いたアストロサイトの移動活性化メカニズムの詳細の解明と、脊髄損傷治療への応用を試みた。in vitroの実験系で特異的なシグナル阻害薬としての活性しか確認されていなかったGSK-3特異的な阻害薬剤を脊髄損傷治療薬として応用するために、アストロサイトの移動に対してこの薬剤がどのような効果を示すのか、生体内・試験管内で検討を行い、客観的かつ定量的に評価した。その結果、脊髄損傷後の機能回復を助ける有用な効果を示すことを村山医療センター整形外科の先生らと共に明らかにし、論文として本年度報告した(Renauit-Mihara 2011)。この解析に加え、STAT3を介したアストロサイトの移動性獲得メカニズムを明らかにするために、遺伝子改変マウスから採取したアストロサイトを用いた実験を実施し、投稿準備中である。さらに損傷の中心に向かって細胞が集まるメカニズムに関する解析も進行中である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
EMBO Molecular Medicine
巻: 3 ページ: 682-696
doi:10.1002/emmm.201100179