ヒトの行動制御や精神神経疾患を理解するためには、脳の領野を繋ぐ神経回路やそこでの機能分子の作用が、どのように神経情報の表現とその統合に関わっているかを知ることが重要である。本研究課題では、行動制御に関わる大脳基底核の淡蒼球に焦点をあて、淡蒼球内に存在している投射先の異なる様々な細胞群が、どのような分子的な特徴を有するかを解析する。淡蒼球の内節と外節において、視床、線条体、視床下核と相互作用する淡蒼球細胞を逆行性トレーサーを用いてラベルし、出力パターンを調べた。さらに、ラベルを抗体を用いて染色し、ライオスタットを用いてスライスし、レーザーマイクロダイセクションを利用して、単一細胞の単離を行なった。切り出した細胞から微量mRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを得、このcDNAを用いてリアルタイムPCRを行い、神経活動に関与する遺伝子群の発現比較を行った。この結果、複数の遺伝子の発現が投射先の違いにより増減していることがわかった。通常の免疫染色法では、RNAが破壊されてしまうが、本研究課題により確立した新たな免疫染色法では、短時間の染色により数百個の細胞を単離した後でもRNAの分解を押さえることが可能となった。本研究課題で目的とした特定回路における機能遺伝子の同定を達成できたと考えている。さらに同定した遺伝子の機能阻害を目的として、アデノ随伴ウイルスベクターやレンチウイルスベクターを使用したウイルス作製法を立ち上げた。また淡蒼球におけるウイルス感染の効率化を目指して条件設定を行った。本研究課題で同定した遺伝子の機能阻害を行うことにより、淡蒼球内で投射先の異なる特定の回路を減弱、もしくは遮断することが可能となる為、これらの研究手法は、基底核淡蒼球の情報処理をどのような細胞種が担っているかという動作原理の解明につながると考えられる。
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