環境中を移動する動物は、環境や身体の内部から感じ取る感覚情報をたよりにしながら、適切な移動方向(ロコモーションの方向)を選択している。本研究は、モデル脊椎動物であるゼブラフィッシュが触覚刺激の位置に応じて体軸の旋回角度を変化させ、刺激から遠ざかる方向に逃避する行動をモデルに用いて、感覚刺激の位置情報を、ロコモーションの方向性に変換する神経回路の構造を理解することを目指した。前年度、後脳のmafb陽性領域に破傷風神経毒素軽鎖(TeTxLC)を発現させて機能を阻害すると、体幹の旋回角度が大きくなり、胚が逃避方向を誤ることを示した。今年度はこの結果に基づいて、カルシウムインディケーターGCaMPを発現させることで、触覚刺激によって駆動されるmafb陽性領域の神経活動をイメージングによって捉えることをめざした。 ピエゾ電圧素子を用いて、準定量的な触覚刺激をゼブラフィッシュ胚の体表面に与えることのできる装置を開発した。この装置を用いて、受精後48時間の胚の頭部、あるいは尾部に触覚刺激を与えると、およそ400-500個と見積もられるmafb陽性領域の細胞のうち、ある限られた細胞集団が活性化されることが分かった。このうち、後脳の分節構造ロンボメア4に左右一つずつ存在するMauthner細胞は、頭部、尾部いずれの触覚刺激に対しても刺激側のMauthner細胞が選択的に活性化されていることが分かった。また、少なくともロンボメア6のmafb陽性領域には、頭部への刺激によってのみ活性化される細胞、尾部への刺激によってのみ活性化される細胞、頭部と尾部いずれの部位への刺激に対しても活性化される細胞の、大きくわけて3種類の細胞集団が存在することが分かった。今後、触覚刺激によって活性化されるmafb陽性細胞を包括的に同定し、その細胞特性を明らかにする上で、重要な成果が得られた。
|