色覚は物体認識の重要な手がかりである。物体表面の色は光の波長依存的な吸収によって生じるため、鮮やかな色の物体面は白色反射よりも必ず暗くなる。この物理的な拘束条件が視環境に存在することから、視覚神経系は入力信号への適応によって色と輝度の相関という統計的性質に適応した情報コーディングを行っている可能性があると考えた。本実験では色と輝度の関係をニューロン活動レベルで明らかにするために、広色域、広輝度レンジの刺激セットを用いて、照明強度も統制した視環境下で、サル下側頭皮質の色選択性ニューロンの応答特性を測定する。 明るく鮮やかな刺激は一般的なコンピューターディスプレイでは表示することが困難である。そこでLEDを光源とした色刺激呈示システムを作成することを本年の目的の一つどした。多色のLEDを混色させることで任意の色を表示することが可能となる。また、刺激の背景および呈示前後の期間に一様な灰色な刺激を呈示するために、CRTディスプレイとLEDによる呈示システムを連動させ、ハーフミラーによって視覚像を重ね合わせる方法を考案した。この方法を用いることで、既存の手法であるCRTディスプレイのみを用いた刺激呈示も可能となり、CRTとLEDとの表示方法の違いによるアーティファクトの有無も確認できる。LEDによる視覚刺激呈示システムのプロトタイプを作成したところ、LEDには電流量や発熱によって輝度や色度が変化してしまう問題が発覚した。この問題の克服が喫緊の課題である。並行して別の対応策を検討した。比較的色域が広く、高輝度の液晶ディスプレイを用いることで限定的ではあるが本研究の目的を果たすことができることを確認した。液晶ディスプレイの色特性に加えて時空間特性も測定し、その結果を国内の視覚研究グループに報告し情報共有を行った。
|