本研究は「マウスの眼優位可塑性」「キンカチョウの歌学習」の2つシステムの臨界期をモデルとして用い、抑制性細胞の可塑性、神経回路における抑制性機構の役割を明らかにすることで「臨界期」の形成されるメカニズムを解明することを目的としている。 本年度は特にキンカチョウの歌学習において、抑制性機構の発達が臨界期に及ぼす影響を調べた。マウスの眼優位可塑性の臨界期では感覚剥奪により、臨界期の開始が遅れるが、GABA受容体のアゴニストであるベンゾジアゼピンの投与によって臨界期が開始し、また終了することが知られている。同様に、キンカチョウでも社会的隔離によって臨界期の時期が延長されることが知られている。そこで、本年度はこの感覚経験、抑制性機構の発達がどのように連携し、臨界期の時期を決定するのか、行動学的、形態学的実験を行った。 通常、社会的隔離をされたキンカチョウでは通常の臨界期を過ぎた時期でも、歌学習をすることが知られているが、ベンゾジアゼピンを投与した個体では、社会的隔離後の歌学習が阻害されていた。これらのことから、キンカチョウの歌学習においても、感覚経験により抑制性機構が発達し、その結果、臨界期が開始、終了するというマウスの眼優位可塑性で見られた臨界期機構のメカニズムが、キンカチョウノ歌学習にも当てはまることが示唆された。臨界期を制御する普遍的な神経メカニズムがあることが考えられた。これらの研究結果はこれまでの研究結果と併せ、論文にまとめ投稿中である。
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