本年度は、これまでの遺伝子発現プロファイリング及び組織学的手法を用いた解析から、マウス大脳発生期において時期・領域特異的な発現パターンを示すことが明らかとなったDmrtAファミリー遺伝子のメンバーであるDmrt3及びDmrtA2の生体内における機能を明らかにするため、各遺伝子におけるノックアウトマウスを作製し、大脳皮質形成における役割を解析した。Dmrt3及びDmrtA2の各ノックアウトマウスは、発生過程における顕著な外見上の異常は認められなかったが、大脳新皮質領域におけるサイズの減少が認められ、特にDmrtA2ノックアウトマウスでは減少の割合がより顕著であった。DmrtおよびDmrta2は、胎生期大脳領域の神経幹細胞において強い発現が認められることから、神経幹細胞における何らかの異常が、ノックアウトマウスにおける大脳領域の縮小における原因であることが示唆された。そこで、これらの因子の神経幹細胞における増殖制御への関与を検証するため、胎生12日におけるDmrta2ノックアウトマウス胚脳切片を用いて、リン酸化ヒストン抗体による免疫組織染色およびEdUパルスラベリングにより、Dmrta2遺伝子欠損が細胞周期へ及ぼす影響を観察した。その結果、DmrtA2ノックアウトマウスでは、神経幹細胞におけるS期およびM期細胞の数が顕著に減少していた。これらの結果から、DmrtAファミリー遺伝子は発生時期特異的な神経幹細胞の増殖制御を介して、大脳新皮質形成に重要な役割を担っている事が明らかとなった。
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