同じことばであっても、楽しそうに言われた場合と悲しそうに言われた場合では聞き手の受け取り万は異なるように、ことばの解釈は表情やプロソディなど感情情報の影響を受ける。本研究では、言語理解の過程において感情情報が利用され、異なる解釈を生みだすときの脳内プロセスを明らかにするために、脳磁場計測実験を行った。「楽しい」、「悲しい」、「ニュートラル」のいずれかの感情的音声を聞かせた直後に、感情的にニュートラルな単語を視覚的に呈示して、単語処理の脳活動における感情情報の影響を検討した。左右半球の下前頭部の活動が、直前に与えられた感情的音声によって異なるという結果から、これらの部位が感情情報と言語情報の統合理解に重要であることを明らかにした。一方、先行研究により、単語の視覚形態処理に関わると考えられる左後頭側頭部、音韻処理に関わると考えられる左上側頭後部・下頭頂部、語彙的意味処理に関わると考えられる左側頭前部の活動は条件差が認められないことから、これらの処理は感情情報の影響を受けない言語の中心的意味を理解するために働いていることを示唆する。また、感情的音声そのものに対する脳活動を解析したところ、右側頭部の活動において感情の種類による違い(楽しい、悲しい>ニュートラル)が認められたことから、この部位が感情的プロソディの処理に関与することを示した。これらの結果から、感情情報を利用しながらことばを解釈する脳内プロセスでは、左右半球に渡る広範囲の部位間の連携と役割分担が本質的な役割を果たしていることがわかった。本研究の成果はNeuroscience Research(2012)に掲載された。さらに、本家成果を社会に発信するためにプレスリリースを行い、日経産業新聞等6誌に記事が掲載された。
|