セロトニン(5-HT)神経の細胞体は脳幹の正中領域に位置し、軸索を脳全体に投射させて、脳全体の神経活動の調節に関与している。これまで、その軸索の投射の制御機構についてはほとんどわかっていなかったが、申請者は、14種類からなる1回膜貫通型タンパク質であるプロトカドヘリンα(Pcdhα)分子群が、5-HT神経の軸索投射、特に軸索の末端の分岐及び分布の制御に関与していることをこれまでに明らかにした。 本課題において、5-HT神経の軸索投射におけるPcdhαの役割をさらに深く理解するために、Pcdhαの種類を減らした3種類のマウスを作製したところ、少なくともPcdhαC2が5-HT神経の軸索投射に必須であるという重要な結果を得た。さらに、5-HT神経の軸索投射は、標的領域でPcdhαを特異的に欠損させても異常は見られないが、5-HT神経のみでPcdhαC2を欠損させると、軸索投射の異常(末端の軸索の凝集)が見られた。そこで、PcdhαC2同士の接着を介して5-HT神経軸索の間に反発シグナルが流れ、軸索の凝集を防いでいるという仮説を立てた。PcdhαC2同士の接着能を見るために、細胞内領域を除いたPcdhαC2をHEK293T細胞に発現させたところ、細胞同士が接触する面に強く局在し、接着に関与する可能性を示唆した。さらに、カドヘリン類を発現しないK562細胞に、細胞内領域を除いたPcdhαC2を膜発現させたところ、PcdhαC2の発現依存的にK562細胞の凝集が見られ、PcdhαC2同士には接着活性があることが明らかになった。また、5-HT神経を培養し、Pcdhαの局在を調べたところ、Pcdhαは軸索の成長円錐に強く局在していた。ゆえに、5-HT神経の軸索の末端では、PcdhαC2同士の接触によって軸索同士が反発し、軸索の分布が制御されていると推測する。
|