研究概要 |
ウイルスベクターを用いた小脳への遺伝子治療は、遺伝性小脳変性症への治療法として期待されている。しかし、遺伝子治療による小脳の障害回復の可能な時期については、ほとんどわかっていない。本研究では先天性小脳失調マウスを用いて回復可能な時期を明らかにすることで、将来の小脳変性症の遺伝子治療における基礎的データを得ることを目的とする。 先天性小脳失調マウスstaggerer(スタゲラー)は、遺伝性脊髄小脳変性疾患1型に関連する転写因子Retinoid-related Orphan Receptorα(RORα)の変異により小脳プルキンエ細胞における特定の遺伝子発現異常と、それに起因したプルキンエ細胞をはじめとした小脳の発達障害が見られ、運動失調を示す。申請者は、スタゲラーマウスのプルキンエ細胞に野生型RORαを生後1,2,3週齢から発現させ、発現時期により障害回復に違いが生じるかを検討した。まず、プルキンエ細胞に野生型RORαを発現させるツールとしてAAV、レンチウイルスベクター、プロモーターをMSCV及びL7で検討したところ、MSCVプロモーターで野生型RORαを発現させるレンチウイルスベクターが、この実験にもっとも適当であることが判明した。そこで上記のレンチウイルスベクターを生後1,2,3週齢のスタゲラーマウスの小脳に注入し、3週間後に運動テスト、電気生理、免疫組織染色による解析を行った。生後1週齢で注入した群は、運動障害と細胞の形態、シナプス応答が、対照群とくらべ有意に回復していた。しかし2、3週齢群では運動の回復は見られず、また2週齢ではプルキンエ細胞形態、機能の部分的な回復が見られるものの、3週齢ではまったく回復していなかった。以上の結果から野生型RORαによるレスキューは、生後1週齢の小脳までは、運動、細胞レベルで回復可能であることが示された。
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