研究概要 |
本研究の目的は,神経膠腫細胞の浸潤先端分子と神経細胞の表層分子との相互応答を解析することで,神経膠腫の治療標的探索へ向け糸口を得ることである.特に膜型メタロプロテアーゼMT-NMP・脳特異的膜型EGFファミリー分子NGC・受容体型チロシンキナーゼErbB系路の解析から神経膠腫浸潤の分子機構の一端を解明することを目指している.これまでに,試験管内の実験から,MT-NMPの作用によりNGCのEGF領域が神経細胞表面に露出しうることを見出した.本年度は,新規に開発された質量分析法によりMT-NMP修飾糖鎖を解析することで,MT-NMPによるNGCを含む標的基質の認識機構を検討した. タンパク質は糖鎖による翻訳後修飾によりその生理機能が制御されるが,個別のタンパク質の糖鎖構造を解析する簡便で迅速な方法は皆無であった.今回に,液体マトリックス3AQ/CHCAを利用することでMALDI(matrix-assisted laser desorption/ionization)質量分析により,極性の異なるペプチドを一斉に解析しうることを示した.実際に,腫瘍細胞から回収したMT-NMPのトリプシン消化物を液体マトリックス3AQ/CHCAに供してMALDI質量分析したところ,二つのMT-NMP由来糖ペプチドが検出された.さらに,多段階質量分析により特定のセリンおよびスレオニン残基には2個から5個のhexoseおよびN-acetylhexosamineからなる糖鎖がそれぞれ結合していることが確認された.興味深いことに,後者は7つもの差異がある糖ペプチドとして存在することが明らかとなった. 今後は,MT-NMPを修飾する糖鎖の不均一性が基質認識に及ぼす影響を細胞レベルで調べることで,MT-NMPとNGCとの相互作用の機序の解明につなげたいと考えている.
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