これまでげっ歯類で行ってきた脳切片でのフラビン蛍光イメージング技術を、ヒトの脳スライス標本に応用することを試みた。手術で摘出したてんかん焦点組織を直ちに人工脳脊髄液中で保存し、スライス標本を作製してincubateを行った。同スライス標本を電気刺激したときの興奮の広がりをフラビン蛍光イメージング法により画像化して解析を行った。対象は腫瘍周辺のてんかん焦点組織で、腫瘍の組織型はGlioma:2例、海綿状血管腫:2例、DNT:1例、pylocytic astrocytoma:1例、Glioblastoma:1例、その他:3例の計10例であり、これらをてんかん群とした。てんかんを有しない患者から採取された腫瘍周辺組織3例をControl群とした。それらの興奮動態を比較検討した結果、てんかん群ではほぼ全ての症例において、層に沿って強く広がる水平性の興奮伝播がみとめられた。一方、Control群では全てにおいて、層に対して垂直に広がるコラム様の興奮伝播を認めた。てんかん群で認められた水平性の興奮伝播の様式をさらに詳細に検討した結果、それは一様に伝播していくものではなく、早い波(Early phase)と遅い波(Late phase)の2つの成分からなることが明らかとなった。さらに、これらは異なった反応特性を持っていることが明らかとなった。すなわち、Early phaseは"all or none"の刺激反応特性を持ち、V層を主体に伝播するのに対し、Late phaseは刺激反応特性がGraduallyであり、II/III層を主体として伝わっていくことが明らかとなった。また、このような水平性の興奮伝播の見られた部位では、錐体神経細胞の樹状突起の棘が喪失し、数珠上に変化するといった微小形態の変化が認められた。以上の結果から、ヒトのてんかん焦点組織興奮伝播特性の一端を明らかにすることができた。このことは、これまで全くブラックボックスであった、ヒトのてんかん焦点組織における局所神経回路網の解析に光を当てることが可能になったことを意味し、今後のてんかん研究の進展において重要な意義を持つものと思われる。
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