本研究において、カルパイン-1およびカルパイン-2両欠損マウスにおける、運動異常についての研究を行った。神経特異的に両カルパインを欠損させたマウスは、モリス水迷路において運動・視野能力に異常がみられた。また、神経における基質を同定するために、試験管内でカルパインを活性化させiTRAQ法による質量分析計を用いた探索により、幾つかの機能に関連した基質を特定した。しかし、生体内では顕著な活性が観察されなかった事から、現在は細胞にカルシウムを流入させた後に、カルパインの基質探索をおこなっている。 一方で、カルパインの内在性阻害タンパク質であるカルパスタチンの欠損および過剰発現マウスと筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスであるADAR2欠損マウスやを交配させると、カルパスタチン量に比例して病態の抑制が観察された。その際にカルパイン依存的なTDP-43に分解が観察されたことから、カルパインがこのタンパク質を分解し局在を変化させる事により、孤発性の筋萎縮性側索硬化症が発症することが考えられる。 同様に、脊髄小脳変性症3型のモデルマウスであるAtaxin-3過剰発現マウスとの交配により、Ataxin-3がカルパインにより切断されることが病態の進行を加速させる事が推測された。 以上の研究から、神経におけるカルパインの活性は、適切に制御される必要があることが明らかになった。現在、様々なカルパイン阻害を標的にした薬剤が開発されているが、それらの長期的な利用は運動機能への副作用があることが考えられる。
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