本研究では、近年の研究から脳内において広範な機能を有していると推測されるバソプレッシン(AVP)に着目し、特にこれまで注目されてこなかった神経変性疾患におけるAVP受容体の役割を解明し、神経変性疾患に対するAVP作用に基づいた予防・治療法の開発に繋がる成果を上げることを目的としている。本研究目的の達成のため、野生型マウス、V1a受容体欠損マウス、V1b受容体欠損マウス及びV1a/V1b受容体二重欠損マウスを用いて各種神経変性疾患モデルを作成し、その病態を検討することにより、AVPの神経細胞死への関与を検討する。また、初代神経細胞あるいはグリア細胞を単離・培養しin vitro系による検討も加え、AVPの神経変性疾患における機能と作用機序の解明を行う、本年度は脳内におけるAVPおよびAVP受容体発現を検討し、グリア細胞におけるバソプレッシンV1a受容体並びにAVP発現を明らかにした。また、V1a受容体遺伝子欠損マウスにおいては、トリメチルスズ誘導性の神経細胞死が亢進していることを見出した。加えてAVPが海馬神経培養系におけるカイニン酸誘導性神経細胞死を抑制することを明らかにした。これらの結果から、AVPは直接的に神経細胞を保護する効果とともに、グリア細胞を介して神経細胞生存に寄与している可能性が考えられた。このことは、AVPの脳内における広範な作用の機序を示す一端であり、AVPを介したグリア細胞機能を明らかにすることにより、神経細胞並びにグリア細胞双方を標的としたAVPおよびそのアゴニスト等による神経細胞保護の可能性を示している。
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