研究概要 |
多系統萎縮症(MSA)は非遺伝性の神経変性疾患である.その発症機序は解明されておらず,明確な診断方法と治療法がない.本研究では,MSAの発症機序を解析することにより,診断法・治療法の開発を目指している.これまでの研究で,MSAモデルマウスにおいて,変性したオリゴデンドロサイトの放出する液性因子が神経細胞内のα-synucleinの発現を促進し,神経細胞の変性の原因となるα-synucleinの不溶化を誘導することが示唆された.オリゴデンドロサイトから放出される液性因子を神経変性因子と名付け,平成22年度ではMSAモデルマウス脳の初代培養細胞を用いて候補神経変性因子の精製と7つの候補神経変性因子タンパクを同定した. 平成23年度は,7つの候補神経変性因子タンパクの発現系を構築し,リコンビナント候補神経変性因子を得た.分化誘導した神経芽細胞とwild typeマウス脳の初代培養細胞に候補因子を投与し,免疫組織染色定量PCR,イムノブロットなどにより詳細に解析を行った.その結果,7つの候補のうち3つの候補因子投与によって神経細胞の変性の原因となるα-synucleinの発現上昇がみられ,そのうちの2つではneuriteにおいてα-synucleinが蓄積することが明らかになった.α-synucleinの蓄積を引き起こす2つのタンパク質がMSA発症に重要な役割を果たすものと考えられる.本研究では,MSAにおける神経変性機構には複雑な系が関与している可能性も見いだされ,この疾患の本質に迫る成果が得られた.また,この成果はMSAの診断法・治療法の開発に向けた第一歩として意義あるものである.
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