脳虚血状態において、虚血周辺部位でのプロスタグランジンE_2(PGE_2)の過剰産生が認められており、脳梗塞を含む脳血栓症の病態形成におけるPGE_2の役割が注目されている。しかし、脳に高発現するPGE_2受容体サブタイプのひとつであるEP_4の脳血栓症の病態形成における役割については、これまで詳細な検討がされていないのが現状であった。前年度は、脳虚血の病態を反映する脳血栓症モデルのひとつである永久中大脳動脈閉塞モデルを対象とした本研究によって、EP_4欠損マウスにおける虚血後の脳浮腫の程度が、野生型マウスに比べて有意に軽減されることを見出した。そこで、本年度は、脳梗塞進展過程を先導するような様式で順次活性化されて障害部位に集積するミクログリアの純培養系を用いて、脳浮増強因子のひとつである血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)の発現に対するEP_4欠損ならびにEP4標的薬物の効果を解析した。野生型マウス由来のミクログリアにおけるVEGFのmRNA発現は、EP_4アゴニスト(ONO-AE1-329:10-10-10-6M)による3時間の刺激で、その用量に依存して有意に増強されることを見い出した。この作用は、EP_4欠損ミクログリアならびにEP_4アンタゴニスト(ONO-AE3-208:10-6M)の共存下で培養した野生型ミクログリアでは認められなかったことから、EP_4を介した反応であると考えられる。本研究によって、脳内PGE_2が、EP_4を介してミクログリアにおけるVEGFの発現を増強するように制御する可能性が示唆された。
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