研究課題
phosphoinositide3-kinase(PI3K)シグナル伝達経路は神経細胞内の様々な現象の制御に関わっており、形態形成、細胞膜の伸展、生存とアポトーシス、イオンチャネルの制御などが知られている。PI3Kは制御サブユニットp85にYxxM(Tyr-x-x-Met)型のリン酸化チロシンモチーフを持つタンパク質が結合することで活性化する。すなわち、逆にPI3Kp85に結合するYxxM型リン酸化タンパク質を検出することで、PI3K活性化因子を網羅的かつ半定量的に同定できる。これまでに多くのタンパク質がYxxMモチーフを持ちPI3Kを活性化すると報告されてきたが、新生仔マウス脳におけるPI3K活性化因子は、驚くべきことに4種類のタンパク質でほぼ全てを占めていることが分かった。本研究では、このうちの3つをNYAPファミリー(NYAPs)として同定し、NYAPs三重欠損マウス(TKO)を作製したところ、PI3K自身およびその下流のAkt,Rac1の活性の減弱、神経初代培養の神経突起伸長遅延、およびマウス個体において脳全体のサイズの縮小と樹状突起形態異常、さらに自閉症スペクトラム障害様の行動異常を明らかにすることができた。また、プロテオーム解析によりNYAPsがWAVE1複合体と直接結合することを明らかにした。WAVE1はPI3K-Rac1経路により活性化され、Arp2/3を介してアクチン重合を制御すると知られている。さらに、非神経細胞ではWAVE1とPI3Kは会合していないが、神経細胞においてのみWAVE1とPI3Kは物理的に会合しており、この会合はNYAPs三重欠損マウスで完全に消失することも明らかにした(三者複合体の形成)。すなわち、NYAPsは(1)神経細胞におけるPI3K活性化因子として定量的な観点から最も重要な因子であるのみならず、(2)様々なエフェクター分子のうちPI3K-Rac1経路下流で機能するWAVE1をPI3K近傍にリクルートしてくるという2つの分子機構によって、神経細胞におけるPI3Kシグナル伝達を形態形成へと方向づけていると考えられる。
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