脳には多種多様な脂質が存在するが、これらが脳機能に果たす役割は十分解明されていない。本研究では、シナプスの形成や機能を調整する脳由来神経栄養因子(BDNF)によって増加する脂質として同定した24ヒドロキシコレステロール(24HC)に注目し、脳神経細胞への作用を検討した。 24HCは神経細胞内のカルシウム濃度上昇を誘導したことから、当初は24CHが後シナプスへ作用する因子であると考えられたが、24HC合成酵素を神経細胞に強制発現させる実験を行ったところ、24HC合成酵素を発現する神経細胞においては、グルタミン酸によって誘導される神経細胞内のカルシウムの上昇が抑制されることが明らかになった。さらに解析を行ったところ、過剰な24HCが神経細胞のシナプス成熟を抑制する働きがあることが確認された。これらの結果から、24HCは、神経細胞を活性化させるのではなく、むしろ抑制することが明らかになった。この分子メカニズムを確認するために、24HCの神経細胞への影響を詳細に調べたところ、一定濃度以上の24HCは神経細胞のコレステロール合成系を阻害することが見出され、その結果として、シナプス成熟が抑制される可能性が示唆された。さらに、24HCはグリア細胞によって積極的に分解されることが見出された。これらの結果から、神経細胞とアストロサイトが適切にコンタクトしている場合にのみ24HCが分解され、シナプス成熟が促進される、という新しいモデルが考えられた。
|