血管は、生物の一生を通じて発生や生存の維持を担う重要な器官であり、それは血管周囲に配置する細胞への多様な働きに基づいている。血管収縮を担う生理活性ペプチドの同定や循環血液中の細胞と血管内皮細胞の相互作用など、血管系を構成する細胞間での分子機構の解明が古くから取り組まれてきている。近年、血管と血管周囲に配置する非血管系の細胞との関係が注目されてきており、発生期および成体での神経細胞の産生に対する血管系の意義が証明され、関連する分子機構が解析されつつある。そして、血管と神経は生体内でしばしば併走することから、血管は、神経細胞の産生だけでなく、回路網形成にも関与する可能性が推察され始めてきた。 神経と血管の回路網形成の類似性から、血管を形成する因子が神経にも作用する(またはその逆)という回路網形成を担う分子の共通性を示した報告は散見される。ところが、両者の直接的な関与に踏み込んだ知見はない。そこでまず、一方が他方の形成に作用するかについて、脳血管内皮細胞と大脳皮質神経細胞の共培養実験を行い解析した。その結果、脳血管内皮細胞に神経突起の伸長を促進させる作用が備わることが示された。また、その作用は、血管と神経が接する状態で顕著に観察された。このことから細胞間接着を担う分子の関与を考察し、接着分子の阻害ペプチドを添加した培養系を用いて関連分子を網羅的に解析した。その結果、血管による神経突起伸長効果にはインテグリンが関わることが示唆された。以上の結果から、血管による神経突起伸長効果には接着分子からのシグナル伝達が重要であることがわかった。
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