前年度に、トリプシン様プロテアーゼによりN末端切断されたPAP-III(△N-PAP-III)が線維状構造を形成し、神経突起伸長を促進することを見出した。今年度は、まずその突起伸長作用について培養系で詳細な解析を行った。大脳皮質神経細胞を△N-PAP-III線維上で培養した場合、コントロールに対し最長突起の長さが2.24倍に、突起の長さの総和が3.14倍に増加した。この突起伸長活性は、抗PAP-IIIポリクローナル抗体で有意に抑制されたことから、△N-PAP-III線維の機能であることが裏付けられた。さらに、前年度作成した△N-PAP-III線維特異的モノクローナル抗体も突起伸長活性を抑制したことから、作成したモノクローナル抗体は機能阻害抗体として使用可能であることが示された。 また、受容体の同定を目指し、培養細胞や血清など生体試料を用い、△N-PAP-III線維と共沈する結合タンパクをSDS-PAGEで分離し質量分析器で解析した。受容体分子の同定には至らなかったが、細胞外分子thrombospondin-1を結合タンパクとして同定した。 末梢神経損傷モデル動物を用いた研究では、まず詳細な△N-PAP-III線維の形状と局在の解析を目指した。しかしながら、作成した△N-PAP-III線維特異的モノクローナル抗体で良好な染色像が得られなかった。免疫組織化学に使用できるモノクローナル抗体を現在さらに作成中である。また、上記のモノクローナル抗体を機能阻害抗体として坐骨神経損傷ラットに投与した。しかしながら、再生軸索の伸長には影響を与えなかった。損傷時の1回投与ではなく、浸透圧ポンプなどを利用した持続投与を行うことで、再評価を行いたいと考えている。生体解析に有用なノックアウトマウスの作成は完了したが、ヘテロ雄マウスが不妊のためホモマウスが得られず、実験を中断せざるを得なかった。
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