本研究は、神経損傷に伴い発現が誘導されるコンドロイチン硫酸(CS)糖鎖の構造と、その構造を有するCSの神経再生制御機構を明らかにすることを目的として行った。CSは、硫酸化パターンの異なる5種類の基本二糖類(CS-AからCS-E)が様々な組み合わせで重合した直鎖状硫酸化ムコ多糖である。神経の損傷部位では、損傷後の出血や炎症のような刺激によりCSを豊富に含む癩痕組織が形成される。損傷を受けた神経の再生は、瘢痕組織により阻害される。マウス脳での瘢痕形成は損傷3日後くらいから始まり、14日後にはほぼ完了することが報告されている。その分子構造は巨大で不均一なため、神経組織からの精製が困難で神経再生過程で作用する活性糖鎖構造と分子メカニズムはほとんど解明されてはいない。 胎生14日のマウス皮質初代培養細胞の培養液にCS-E構造を多く含む糖鎖(CS-E含有糖鎖)を添加すると、細胞の接着性が変化し細胞凝集塊が形成された。この変化は、CS-AからCS-D含有糖鎖の培養液添加では観察されなかった。CS-E含有糖鎖による細胞形態の変化は、C-Raf阻害剤あるいは網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)とC-Rafの結合を阻害するRRD251を予め培養液に添加しておくことにより抑制された。一方、C-Rafの下流として一般的に任地されているMEKの阻害剤(UO126)の添加では抑制させなかった。以上より、CS-E構造は、C-Raf/Rbシグナルを介して神経細胞の接着や再生を制御していることが示唆された。
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