Na+/H+交換輸送体(NHE)の阻害剤がオートファジーを阻害することから、まず、NHEの強制発現が異常蛋白の凝集を抑制するかどうかを調べた。マウス神経芽細胞株Neuro-2a細胞にポリグルタミン蛋白(polyQ)とNHE1、NHE5、NHE6、およびそれらのイオン輸送活性欠損変異体とをそれぞれ共発現させ、polyQの凝集を観察した。通常の発現ベクターを用いたコトランスフェクションでは結果にばらつきが見られたため、Cre-loxPシステムを用いてNHEの発現後にpolyQの発現を誘導するとNHE1、NHE5、およびNHE1の変異体でpolyQの凝集を顕著に抑制した。これらpolyQの凝集を抑制するNHEを強制発現させた細胞でオートファジーフラックスアッセイを行ったところ、実際にNHE発現細胞においてオートファジーが活性化していることが確認された。これらのことは細胞膜型NHEであるNHE1とNHE5がオートファジーを介して異常蛋白の凝集を阻害することを示唆している。細胞内pHイメージングの結果から細胞膜型NHEを強制発現した細胞では基底レベルの細胞内pHが対照群に対し有意にアルカリ化していたことからNHEを介した細胞内pHの上昇がオートファジーの活性化に関与していると考えられる。一方、NHE1の変異体でも凝集は抑制されることからNHE1においては細胞内pH調節に依存しない凝集抑制機構の存在も考えられる。以上の結果を踏まえ、ポリグルタミン病の一種であるハンチントン病モデルマウスとNHE5 KOマウスの交配を開始した。今後、このモデル動物を用いてin vivoで神経系におけるNHEの生理的役割について検証するとともに、NHEによるオートファジー活性化機構の解明を目指す。
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