嗅神経細胞はcAMPシグナルを用いて、活動電位の発生、軸索のソーティングや投射先の決定、シナプス成熟の制御などを行っている。同じcAMPシグナルがどのように多様な機能に使い分けられているかを調べるために、光依存的にcAMPを産生する酵素PACをマウス嗅神経細胞に発現させ、時空間的にcAMPシグナルをコントロールすることを試みている。具体的には、マウス嗅覚受容体遺伝子M71のプロモーター及びコーディング領域の下流にPAC遺伝子と赤色蛍光タンパク質RFP遺伝子を挿入したトランスジェニックコンストラクトを作製し、マウス受精卵に導入した。得られたトランスジェニックマウス(M71-PAC-REP)の嗅上皮の切片を観察したところ、嗅上皮の中でRFPを発現する細胞集団が観察された。このM71-PAC-RFPトランスジェニックマウスをM71-GFPマウス(内在性M71遺伝子を発現する細胞で緑色蛍光タンパク質GFPを発現するマウス)と掛け合わせて嗅上皮を観察したところ、RFPとGFPは別々の嗅神経細胞で発現していた。これは嗅覚受容体遺伝子の相互排他的発現としてすでに報告されている知見と一致している。今後、PACを発現するM71細胞(赤色蛍光)とPACを発現しないM71細胞(緑角蛍光)を同一個体内で比較しながら、光により局所的に誘導されたcAMPシグナルが神経回路形成にどのような影響与えるのかを詳細に観察する。
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