研究概要 |
"本研究の目的は、哺乳動物中枢神経系での神経伝達物質のシナプス小胞内再充填時間と、充填を修飾するメカニズムを明らかにすることである。哺乳動物脳幹のグルタミン酸作動性シナプス前末端calyx of Heldは、大型なため、ホールセル記録下で前末端内のグルタミン酸濃度を操作することによって、小胞内グルタミン酸濃度を変化させることが可能である(Ishikawa et al 2002)。本研究はこのシナプス前末端に、ピペット急速灌流法およびcaged glutamateを適用し、グルタミン酸濃度測定法、Cl^-濃度測定法を併用して、小胞内と前末端細胞内のグルタミン酸濃度の経時間変化を追跡する。更に前末端における小胞充填時間の温度依存性と生後発達変化を明らかにする。 研究計画の成果: (1)シナプス小胞グルタミン酸充填速度の観測:生理的前末端濃度のグルタミン酸(3-5mM;Ishikawa et al,2002)の下に、一旦枯渇した小胞が充填されるために必要な時間を求めた。小胞へのグルタミン酸充填時定数は15秒であり、1分以内に神経伝達物質が再充填され、再利用可能になることを明らかにした。 (2)小胞充填機構の温度依存性:記録温度を変えて、上記の実験を行った。生理的温度(35℃)では充填時定数が約8秒に早まり、小胞充填の温度依存係数Q1Oは1.8であった。 (3)小胞充填機構の生後発達変化:上記の実験を生後7日、14日、21日のマウスを用いて行った。充填時定数は、生後7日では約40秒、生後21日では13秒であり、生後発達に伴う小胞充填速度の促進が観測された。 (4)小胞充填機構のCl^-濃度依存性:前末端ホールセル内液のCl^-濃度を変えて、上記の実験を行った。小胞充填速度は、前終末細胞質内のCl^-濃度が30mMの時最大となり、高Cl^-濃度および低Cl^-濃度条件下では小胞充填速度と充填量の低下が観測された。
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