運動学習を担う小脳は、認知や情動機能にも関ることが示唆されている。小脳顆粒層に存在する抑制性介在ニューロンは専らゴルジ細胞であり、その生理学的役割について精力的に研究が進められてきた。一方、顆粒層にはルガロ細胞が存在し、そのサブタイプであるグロビュラー細胞が形態学的に同定された。本研究では、グロビュラー細胞へ入力する神経線維の同定と、それらシナプス伝達の性質を解析することを試みた。ここでは、GABAニューロンをGFP(Green Fluorescent Protein)で選択的に認識できるGAD67/GFPノックインマウスを用いた。まず、グロビュラー細胞と近傍のプルキンエ細胞にダブルホールセル記録法を適用し、シナプス結合の有無を直接証明することを試みた。その結果、プルキンエ細胞へ脱分極刺激を与えると、グロビュラー細胞から誘発性の抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録できた。次にグロビュラー細胞から興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録して、平行線維、登上線維、苔状線維のいずれの線維から興奮性入力を受けるのか検証した。グロビュラー細胞から自発性EPSCを記録すると、低頻度で振幅の小さいことが分かった。刺激電極を分子層から顆粒層へと移動して、誘発性EPSCを記録したところ顆粒層への刺激によって記録が可能となった。短時間に2発刺激を与えると2発目の応答が減弱した。これらは苔状線維-ゴルジ細胞間シナプスにおける誘発性EPSCの性質と似た傾向であることから、グロビュラー細胞は苔状線維から興奮性入力を受ける可能性が示唆された。しかし、グロビュラー細胞への平行線維、登上線維からの入力の可能性は残っており、今後これらの興奮性入力の可能性を明らかにする必要がある。
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