研究概要 |
大脳基底核の線条体の神経細胞が報酬価値に相関した活動を示すことが知られている。しかし、この活動が内部状態などを反映した主観的価値を表現するかが明らかではない。本研究はサルに一定の行動を複数の報酬条件で行わせ、その行動によって動物の主観的な報酬価値が推定可能であるという画期的な行動課題を用い、線条体から神経活動を記録し、その価値表現様式を明らかにすることを目的とする。H22年度においては、報酬量と報酬遅延の2つのパラメータを手がかり刺激で教示し、以前の研究(南本ら2009)をもとに不実行試行割合からサルの動機づけレベルを推定した。推定された動機づけレベルは報酬量と遅延からサルが計算した主観的価値を反映していると考えられた。この行動課題を遂行中のサル(n=2)の尾状核より単一神経細胞活動を記録した。手がかり刺激の後,多くの尾状核の細胞が活動を増大させ、その約20%の活動が行動から推定された主観的価値と有意な相関関係を示した。この神経活動による主観価値の情報は行動の開始時点まで保持されていた。一方、報酬量あるいは遅延のみを表現する細胞は少なく、情報表現としての寄与率も低かった。これらの結果は尾状核の特定の神経細胞が、報酬の量とタイミングが予測できる刺激が呈示されると、そこから計算された主観的価値に対応した神経活動を示し、報酬獲得行動の開始時点まで保持することで、報酬獲得行動を適切に動機づけることに関わることを示唆する。
|