これまでの研究で、ショウジョウバエの睡眠を制御するドーパミンシグナルの下流で働く候補分子として、カルシニューリン(Ca^<2+>-カルモジュリン依存性タンパク質脱リン酸化酵素)に注目し、Ca^<2+>-カルシニューリンシグナル経路が、睡眠制御に重要な役割を果たすことを発見した。また、哺乳類と同様に、カルシニューリンが記憶形成に必須であることも示した。平成22年度の研究において、カルシニューリンの成虫脳での発現を調べたところ、神経細胞・グリアを含む、ほぼ全ての細胞で発現がみられた。さらに解析を進めたところ、以下の興味深い結果を得た。まず、脳の様々な部位でGAL4を発現する系統を用いて、カルシニューリンを局所的にノックダウンし、機能部位を調べた。その結果、予想に反して、ショウジョウバエの睡眠中枢とされるキノコ体では効果がなく、30系統以上を調べた中で、唯一OK307というGAL4ドライバーのみで、睡眠量が減少した。その効果は全神経でのノックダウンに匹敵し、記憶異常も認めた。OK307は、giant fiberという中枢から末梢への出力を担う神経系にGAL4を発現するが、この神経系の睡眠や記憶・学習における役割は、これまで、全く知られていない。さらに、ドーパミンシグナルとの関係を調べる目的で、OK307を用いてドーパミンD1受容体(DopRとDopR2)をノックダウンしたところ、睡眠量が有意に増加し、OK307でGAL4を発現する細胞がドーパミンシグナルの標的となっている可能性が示された。
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