研究概要 |
これまでの研究で、Ca^<2+>-カルシニューリン(Ca^<2+>/カルモジュリン依存性のタンパク質脱リン酸化酵素、以下Cn)シグナル経路が、ショウジョウバエの睡眠制御に重要な役割を果たすことを発見した。また、哺乳類と同様に、カルシニューリンが記憶形成に必須であることも示し、本年度J.Nurosci誌に報告した(Tomita et al,2011)。さらに解析を進め、OK307という中枢から末梢への出力を担う神経系(giant fober)のGAL4ドライバーでGAL4を発現する脳内の神経細胞において、Cnシグナルとドーパミン(以下DA)シグナルがクロストークし睡眠を制御している可能性が示された。この結果に基づき、本年度は、CnシグナルとDAシグナルのクロストークによる、全く新しい睡眠制御機構の解明を目的とした。まず、Cnシグナルの上流に位置するNMDA型グルタミン酸受容体を全神経でノックダウンすると、Cnノックダウンと同様に睡眠量が著しく減少することを見出し、NMDA受容体-Cnシグナル経路によるショウジョウバエの睡眠制御が示唆された(投稿準備中)。OK307ドライバーを用いてCnシグナルの下流で働く候補分子をノックダウンし、睡眠への影響を調べた。その結果、Cnシグナルの下流分子として哺乳類でよく研究されている、プロテインボスファターゼ1(PP1)の活性調節因子の一つであるI-2のノックダウンにより、睡眠量が有意に増加することを見出した。哺乳類では、DAシグナルは、cAMP-PKA経路によるPP1活性調節因子の制御を介して、Cnシグナルとクロストークすることが報告されており、興味深い結果である。OK307ドライバーにおいて、CnとDA受容体を共発現する複数の細胞を免疫染色により確認した。これらの細胞が睡眠制御に関与すると考えられる。
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