本研究では、体毛を利用したリアルタイムの神経活動計測システムの開発を目指す。本年度は研究計画に従い、以下の成果を挙げた。 1.体毛の電気的特性を文献により調査した。この結果、体毛の構造は電線に極めて類似していることが分かった。体毛の内・外層部は高分子タンパク質のケラチンからなり、絶縁性である。一方、中心組織は空隙を多く含み、保湿のための水分の存在が指摘されている。もし水分が電解質であれば、自然な電線として利用できる可能性がある。電解質でないとしても、生理食塩水のような安全な電解質溶液を導入することで電線として加工できるかも知れない。体毛はその絶縁性のため、生体計測における障害としてとらえられることが多かった。今回の知見は、体毛を計測に積極的に利用できる新しい可能性を示すものであった。また生体内部の状態を計測するためには、体毛を電線として利用する基礎技術の確立が必要であるという課題が明確になった。 2.体毛に導電性を与えるための試験を実施した。この結果、体毛に電解質の溶液を導入できる可能性が高いことが分かった。初めから体毛の自然な保湿成分を利用して計測を行うことは、技術的に困難と思われた。そこで、電解質として食塩水を導入できないかを検討した。内部構造の観察を容易にするために、ウサギ(ニュージーランドホワイト種)の白毛をサンプルに用いた。サンプルを着色した水に浸し、顕微鏡で観察したところ、毛髄質内部の端部に溶液が浸潤している様子を観察できた。この結果は、μmオーダーと細い毛髄質を利用することで、体毛に人工的に導電性を与えられる可能性があるということを強く支持していた。この範囲を広げ、毛髄質全体に行き渡らせ導電性を実際に与えられるか検証することが、次の課題となった。本年度は、そのための実験装置も新たに考案し準備を行った。
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