研究概要 |
昨年度までの研究において、進化的に高等な実験動物、カニクイザルより初代培養大脳皮質神経細胞系を作成し、その神経細胞のうちに形態的多様性が存在することを見出した。具体的には、マウスやラットなどの初代培養大脳皮質神経細胞と比較してカニクイザルの神経細胞においては神経突起の本数が平均2本程度と少ないが、少数の神経細胞は4~6本の一次突起を有し細胞体の体積も大きい傾向を示した、というものである。これらの形態の違いは、発火頻度などの神経活動の差と関連することが考えられる。そこで本年度は、神経細胞を形態からキャラクタライズし、免疫細胞化学の手法とあわせて、神経伝達物質の種類をはじめとした機能的性格付けと形態的特徴を結びつけることを目的とした。その結果、平均本数より優位に多い一次突起を有する神経細胞が、GABA作動性神経細胞のサブタイプであるカルレチニン陽性神経細胞に見られることを解明した。本成果は関連学会(Asian Pacific Society for Neurochemistry, Japanese Society for Neurochemistry, 2012)において報告した。 大脳皮質の神経細胞は、グルタミン酸作動性神経細胞を主体とした興奮性神経細胞とGABA作動性神経細胞を主体とした将来的な抑制性神経細胞に大別できる。それらの神経細胞のうち特に抑制性神経細胞は、全体に占める数的割合は低いものの、脳の体積が急速に拡大したサルやヒトといった霊長類の脳特有の高次脳機能発現と密接に関連することが知られている。従って本研究成果は、霊長類の大脳皮質神経細胞特有の形態的・機能的特徴の一端を示し、高次脳機能障害・精神疾患の研究に対して有用な情報となり得ると考えている。
|