体細胞核移植における個体形成のメカニズムには未だに解明されていない点が多い。我々がメダカで成功した体細胞核移植ではマウスと異なる独自の方法をとるため、個体形成につながる初期卵割、特に第一卵割の成立メカニズムには注目すべき現象が含まれていると考えられる。すなわち、魚類の体細胞核移植胚は、雌性発生胚と同様に、第一卵割の紡錘体形成を担う中心体は体細胞あるいは、不活化精子などにより外部から供給されるため、中心体と雌性前核が正しく配置されることが第一卵割の成立に重要な要素になる可能性がある。本研究の目的は、いまだ謎の多く残る核移植クローンの個体形成のメカニズム解明に向けて、雌性発生胚および核移植胚が初期卵割する仕組みを明らかにする事である。我々は、まず初めに核移植個体の遺伝子型を詳細に調べた。メダカの 24 本の染色体それぞれにつき 4 つの多型マーカーで、成体にまで発生した 3 個体の核移植個体を解析したところ、すべての個体のゲノムはドナー細胞由来であることが判明した。我々は、メダカ特有の核移植法がなぜ正常な二倍体クローンを生み出すのかを解明するために、核移植個体の初期卵割におけるレシピエント核、ドナー核、および中心体の動態を観察した。しかし、そもそもの移植胚の発生率が極端に悪く、クローンを形成する正常発生胚をコンスタントに得ることが難しかった。核移植個体を用いたクローン形成メカニズムを解明するためには、体細胞核移植胚の初期卵割の成立頻度を大幅に改善する必要があった。そこで、核移植に適した未分化細胞を簡単に判別、分取出来るトランスジェニックメダカ Tg(oct3/4:egfp)を作製した。
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