研究課題
サルはヒトと同じ霊長類に属し、医学の基礎研究から前臨床試験において必要不可欠な実験動物として広汎な研究に使用されている。私の主要な研究テーマであるマラリアワクチンの開発では、リスザルを用いた免疫・感染実験によりワクチン効果の検証を行っている。しかし、リスザルはワクチンの効果、安全性を調べる上で必須不可欠であるにもかかわらず、分子生物学的、免疫学的研究が十分に進められておらず、免疫応答を研究するための各種検出抗体などがないのが現状である。そのため、貴重なヒトモデル実験動物であるサルを用いても、十分なデータが得られていない。これまでに医薬基盤研究所・霊長類医科学研究センターにおいて、マラリアワクチンの開発を目指して、リスザルを用いたSE36ワクチンの免疫とマラリア原虫の感染実験を行ってきた。この過程でマラリア原虫感染前の健常リスザルの脾臓を採取している。本研究ではこの非感染の脾臓からRNAを抽出し、cDNAライブラリーを作成、および次世代シークエンサーによるシークエンス後、IgG、IgA、IgM遺伝子、CD4、CD8遺伝子などをクローニングした。これまでに、リスザルIgG検出用モノクローナル抗体を作成し、新たな知見を見出した。霊長類を用いた研究は貴重なデータが得られる反面、繁殖・飼育・実験環境が限られているため研究者人口が少ない。そのため、このような検出用抗体は需要が少なく、商品化されにくい。本研究で得られる成果はリスザルを用いた免疫学・感染症学研究にすぐさま利用可能であるばかりでなく、本方法を応用することでIgG以外のFcレセプターやサイトカインといった免疫関連分子、およびその他の重要な分子の検出抗体の作成が可能となる。本研究により検出用抗体の作成法を確立することは、霊長類を用いた研究の進展に寄与することとなる。
2: おおむね順調に進展している
当初、cDNAライブラリーの作成による遺伝子クローニングを計画していたが、次世代シークエンサーによる大規模シークエンシングを取り入れることにより、遺伝子クローニングに割く時間がほとんどなくなった。さらにDNA免疫法を用いたモノクローナル抗体の作成法の確立を目的としていたが、さらに効率的な方法によりモノクローナル抗体の作成を可能とした。リスザルIgGの解析、および作成したモノクローナル抗体を使用することで、新たな知見を見出し、更なる進展が見られた。この知見を元に論文の投稿を準備中であり、学会発表もできた。一方で、当初の目標であるIgA、IgM、CD4、CD8などの検出抗体の作成については、遺伝子のクローニングも終了し、いつでもモノクローナル抗体の作成は可能にした段階で一時中断している。
当初の計画よりも早い段階で最初の目標であるリスザルIgG検出用モノクローナル抗体を作成することができた。さらに本研究で開発した抗体を用いた解析により、新たな知見を得ることができた。また、次世代シークエンサーによる大規模シークエンシングを取り入れることにより、当初の計画以上の遺伝情報を入手することができた。このため、当初目標としてきた以上の知見を得、その解析から、免疫系における抗体の役割について解析を進めるようになった。本研究により、次世代抗体医薬に向けた新たな知見を得ることが可能となったが、計画以上に研究が進んだため、試薬等の購入予算が不足している点が問題点である。当初、IgA、IgM、CD4、CD8などの検出抗体の作成を計画していたが、モノクローナル抗体の作成をいつでも可能にした段階で一時中断し、次世代抗体医薬の開発に向けた研究を計画している点が変更点である。
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http://www.biken.osaka-u.ac.jp/kenkyu/kansen/Protozool/index.html