1.目的:歯牙組織は結晶構造を持つハイドロキシアパタイト(HAp)を含み、HAp結晶のナノレベルの異方性構造が組織強度に影響を与える。本研究では歯牙組織内HApの結晶構造に注目し、X線回折など非破壊・非接触的な構造解析技術を利用した歯牙強度評価法を検討した。 2.実施内容:HAp結晶特性と歯牙強度の関係を定量化するためには、結晶構造特性の指針であるHAp結晶化度、結晶配向の方向・割合と、弾性率、硬さ、ひずみ特性、耐摩耗性、耐食性といった強度特性との関係を明らかにする必要がある。本年度は[1]歯牙試料の結晶構造計測・解析システムの開発、[2]ヒト歯牙エナメル質、象牙質の力学試験、[3]歯牙組織内HAp結晶の配向性測定を実施した。本実験結果から、エナメル質を構成するHAp結晶が歯牙表面に対して特定の配向を持つことがわかった。また、X線回折法を利用した歯牙エナメル質表面のひずみ測定法を提案し、負荷中のひずみ分布を測定した。本測定手法を、HAp-コラーゲン複合構造である骨組織や、高い結晶性を有するチタン材料にも適用し、測定結果の検証ならびに生体組織測定におけるX線回折法の有効性を確認した。 3.結果の意義:X線回折法により、歯牙表面のひずみを、1mm程度の空間分解能で測定することが可能となった。歯牙にはエナメル質-象牙質境界部や、欠損、う蝕治療、かみ合わせ異常に依存した構造由来の複雑な荷重分布や応力集中が生じる。組織内での局所的な応力集中の発生は、歯牙組織の損傷や破壊(強度低下)の原因となる。本測定で得られたひずみ分布から、歯牙組織に作用する応力分布が推定できれば、治療評価や欠損予測といった診断技術に有益な情報となることが期待される。
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