全国の医療機関における麻酔医不足が、深刻な社会問題となっている。この麻酔医不足は、全身麻酔での緊急手術を困難にするだけではなく、地域医療における専門の麻酔医の流動化を促進させ、次世代を担う人材育成の機会を奪っている。全身麻酔での緊急手術が行えず、患者の転送を余儀なくされる場合もある。また、緊急治療に携わる執刀医の負担は大きく、単純な医療ミスを招く場合もあり、過酷な勤務状況の中で、繊細な薬剤治療や麻酔管理を行うことは難しい。本研究では、生命維持に最も重要な薬剤投与中のバイタルサインの管理に焦点を絞り、麻酔医不足の地域医療や新人の医師でも、熟達した専門医の治療戦略を実現できる、知的な治療支援システムの研究開発を目指すことを目標とする。 初年度では、薬剤による医療事故やミスが起こり易い状況を調査し、意思決定支援システムの操作者(初心者)における、薬物動態の学習過程や突発的な状況変化に対する対処方法を検討した。具体的には、ニューラルネットワークによる適応予測制御により、適切な薬剤投与量の決定を支援できるシステムの操作者(7名)と、支援システムを利用しない操作者(7名)の2群に分け、血圧応答シミュレータを利用した比較実験を行った口また、予期せぬ突発的な外乱には、-30mmHg程度の大きな血圧低下を想定した。その結果、提案した意思決定支援システムを用いることにより、初心者であっても、予期せぬ緊急事態に対して素早く適切な処置を行うことができた。次年度以降は、これまで進めてきた知能制御システムの研究の成果を発展させ、初心者と麻酔専門医における治療戦略や薬物動態に対する理解の違いを比較・検討しながら、安全性をより向上させる治療支援システムの研究開発を進める。
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