研究概要 |
大動脈瘤の破裂は30日生存率が極めて低い上に毎年1万人以上が死亡しており,破裂に至るメカニズムの解明や破裂確率の予測が必要である.そこで,大動脈瘤の局所の構造を詳細に調べ,顕微鏡下での力学試験により瘤壁の構造変化と力学特性の関係等を明らかにすることを目指している.また,このような過程を通じて破壊メカニズムの解明を目指すと共に,破裂確率予測のための基礎的知見を得ることを目的とする. 研究初年度の本年度は,血管を構成する主成分(エラスチン,コラーゲン,および平滑筋細胞)の中で引張強度が極めて高いコラーゲンに着目し,顕微鏡下で血管内コラーゲンを観察する実験システムを構築に取組んだ.コラーゲン線維が複屈折特性を示すことを利用し,血管のリターダンス計測により,血管試料内のコラーゲン線維の走行方向およびその分布量を計測することを試行した.初めに,様々な厚さに薄切したブタ血管試料のリターダンスと試料厚さに高い相関が得られたことから,リターダンスによる血管内複屈折物質の定量計測性を確認した.次に、血管内にあるコラーゲン以外の主成分によるリターダンスの影響を調べたところ,エラスチンおよび平滑筋細胞ともに,血管のリターダンスに大きく影響しない結果を得た.従って,リターダンス計測による血管内コラーゲンの計測方法を確立した. また,これまでに実施した大動脈瘤の破裂試験の力学特性データを再解析したことにより,大動脈瘤壁の硬さの特性を示す力学特性パラメータが引張強さと有意に相関することを発見した.また,このパラメータは診断情報から得られる可能性があり,大動脈瘤壁の強さを予測することに有用であることが期待される.
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