本研究では、中枢神経疾患の一つであるパーキンソン病に対する細胞移植治療に貢献できるバイオマテリアルの創製を最終目標として、生体内において細胞を厳密に制御している微小環境を模倣した材料(人工ニッシェ)の創製に向けて研究を進めてきた。 本年度は、材料構築のための重要な基礎知見となる、(1)細胞生存・神経分化に関わるタンパク質の担時とその有用性に関する知見の集積、(2)材料へのタンパク質担持における細胞への局所的・選択的効果およびそれ以上の付加的効果(継続したシグナル伝達)の有無に関する評価、について研究を進めてきた。さらに、細胞移植用材料のプロトタイプと位置付けたコラーゲンベースハイドロゲルの創製を進めてきた。 まず、脳由来神経栄養因子(BDNF)およびグリア由来神経栄養因子(GDNF)をガラス基板上に担持させた2次元培養系を作製し、その上での神経幹細胞のドーパミン神経への分化について検討を行った。その結果、既存の分化誘導法よりも効率良くドーパミン神経が誘導されることが明らかとなった。また、分化誘導の高効率化には、効率良く細胞に分化誘導シグナルを与えることができていることに起因することを突き止めた。さらに、本研究代表者が開発した細胞接着性キメラ蛋白質(LG)は、グリア細胞(アストロサイト)を捕捉しないことを見出し、神経幹細胞や成熟神経の接着のみを促すことが分かった。これらの結果から、BDNF・GDNF・LGの共固定基材は、ドーパミン神経へ効率良く誘導できることが明らかになった。現在、本研究について特許の出願準備を行っており、出願後論文誌への発表を予定している。 次に、細胞移植用材料としてのコラーゲンベースハイドロゲルのin vivo評価を行った。その結果、LGを担持させたコラーゲンゲルと混合して移植した神経幹細胞は、生着率が、細胞のみでの移植に比べ、大幅に向上することが分かった。この理由として、LGを担持させることによる、細胞接着性の向上に起因することが分かった。現在本研究について、論文誌への発表の準備を行っている。
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