細胞の低酸素応答にともなって立体構造が変化すると考えられるpVHLタンパク質をscaffoldとし、「バイオセンサー型プローブ」の分子設計を進めた。 昨年度までに、pVHLタンパク質分子中に2個の蛍光色素TAMRAを部位特異的に結合させると、TAMRAはH型ダイマー形成によって消光し、pVHLの構造が変化するとダイマーが解消されて再び蛍光を発するようになることが分かった。つまり、pVHLの構造変化を蛍光シグナルで検知できることが明らかになった。 そこで本年度は消光-蛍光スイッチング現象が確認できた3つのプローブについて分子動力学シミュレーションを実施し、プローブの立体構造とH型ダイマー形成が可能な距離を調査した。具体的には、TAMRAを結合させたpVHL初期モデル構造を作成し、Amber プログラムを用いてMDシミュレーションを行った。その結果、いずれのプローブにおいてもpVHLの主鎖構造は保たれており、結晶構造をもとに設計を行うことで本来の構造・機能を損なうことなく蛍光色素を導入できることが示唆された。さらに、TAMRAの色素間距離は最大で約40Å離れていても消光が観察されたことから、この距離以内に収まるように色素を結合することで、H型ダイマー形成を人工的に導入することが可能であることも分かった。 以上より、pVHLプローブのプロトタイプが作成できた。また、当初の計画通り、合理的分子設計に基づく環境検知プローブの分子設計において汎用性の高い方法論を示すことができた。
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