光線力学治療(Photodynamic Therapy;PDT)はがんの低侵襲な光治療法であり、現在臨床で行われているが、ドージメトリーの管理が曖昧なことが問題点である。がん組織の光学特性値およびPDTによるその変化をデータベース化することにより、より詳細な治療計画の決定および科学的に制御された治療が可能となる。平成22年度は、マウス腫瘍組織に対してタラポルフィンナトリウム(レザフィリン、明治製菓)と波長664nmの赤色半導体レーザーを用いたPDTを行い、レーザー照射直後および1、2、7日後の腫瘍組織の光学特性値について検討を行った。光学特性値の算出は、双積分球光学系を備えた可視・近赤外分光光度計(測定波長域は350~1000nm)を用い正確な総透過率T_tおよび拡散反射率R_dの測定を行い、T_tおよびR_dから逆モンテカルロ法を用い吸収係数μ_aおよび換算散乱係数μ_s'を算出した。結果。PDT直後はμ_aおよびμ_s'の変化は観測されなかったが、PDT7日後において波長350~550nmにおけるμ_aおよび波長350~1000nmにおけるμ_s'の増加が観測された。μ_aおよびμ_s'の変化から、PDT7日後の腫瘍組織において光侵達深さが減少することが見積もられた。また、PDT7日後の腫瘍組織の組織学的評価から、腫瘍細胞の減少とその空隙の繊維組織への置換が認められ、これが光学特性値の変化に影響を与えていると考えられた。PDT後の光学特性値および光侵達深さの変化は現在臨床では考慮されておらず、PDT後の光線力学診断(Photodynamic dianosis;PDD)やPDTの再照射治療にとって重要な情報となる。
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