研究概要 |
本申請研究は,次世代の神経用途電極の可能性として,カーボンナノチューブ(CNT)バンドルを用いた新規電極の開発を行い,その神経インターフェイスとしての性能を,生体神経細胞/組織を試料とした電気生理学実験によって評価することである。2年目となる本年度は,我々が開発した細胞内刺入用CNTバンドル電極を製作し,ラット網膜組織から急性単離した単一神経細胞を試料として電極性能の評価を行った。ガラス電極を同時に用いた穿孔パッチホールセル記録法による計測から,細胞内へのCNTバンドル電極刺入の前後について, 1)細胞の静止膜電位の変化は,10mV未満であり,多くの場合で検出できない程小さいこと, 2)細胞の受動的な膜抵抗および膜容量の変化は検出できず,従って,細胞膜とCNTバンドル電極表面との間でギガオームシールが形成可能なこと,が分かった。さらに, 3)細胞内CNTバンドル電極と細胞外参照電極との間の電圧印加刺激によって,細胞の活動電位発火が誘発可能なこと, 4)パッチ電極からの細胞内電流注入により誘発された活動電位と,上記3)で誘発された活動電位との間で,その波形に差異が認められず,従って,細胞内に刺入したCNTバンドル電極による細胞内環境の変性が,少なくとも観測中(1時間未満)には起こらないこと,が示された。さらに予備実験ながら, 5)先端直径1ミクロン程度に太束化されたCNTバンドル電極を製作し, 6)これが,マウス脳切片試料内100ミクロン程度の深部へ,形状を維持したまま直接刺入できる機械的強度/柔軟性を持つことを見出した。 以上1~4)により,これまでに開発したCNTバンドル電極が,細胞内刺入型刺激電極として使用可能なことが実証され,さらに5,6)により,CNTバンドルの細胞外電極としての可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究実施計画に記載した5つの項目を全て実施した。項目1~4については良好な成果を得たが,項目5の"CNTバンドル電極による細胞膜電位計測の試み"については,実施したものの,残念ながら計測成功には至らなかった。ただし前述の通り(『9.研究実績の概要』),CNTバンドルの細胞外電極としての可能性を見出したことは,当初の計画以上の成果である。従って,自己点検の評価区分として,(2)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで,CNTバンドル電極の細胞内刺入型電極としての評価を行った。今後は,『9.研究実績の概要』に記載した項目5,6の実験を本格的に実施し,神経組織刺入型電極としての実用性評価を行う。さらに,我々の開発するCNTバンドル電極が,刺激用のみならず計測用としても使用可能か否か,引き続き検討する。
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